坂口 恭平 エッセイ

コンビニの体温

三ヶ月前、家の近所に新しくセブンイレブンがオープンした。それまではそこの向かいのファミリーマートしかなく、そこは大変にぎやかだったのだが、強敵セブンの登場でファミリーマートのちょっと弱気な店長はいつにも増して弱そうに店前を掃除しながら、目の前のニューセブンを回りを気にすることなく見ていた。ニューセブンは輝いて見えただろう。花とかも飾られている。オールドファミリーマートとの対比が見事に演出されたその風景を見たものにはまさに出来レースといった様子に見えた。

案の定、開店当初からおにぎり100円セールやエクレア50円、弁当割引セールなど新しいうえに、安いも加わり、ファミリーマートコミュニティは一気に崩れ去り、肉まんとかもニューセブンの方がやっぱりうまいので本当に漫画を見ているかのようにファミリーマートには人がいなくなっていった。店長は腕を組みながら、店先で「ニュー」の方を見ていた。

しかし、である。今現状を見てみるとセブンに意外とお客が入っていないのである。そのかわりファミリーマートがお客で溢れているということではないのだが、それでも悪くない様子である。僕はあれこれ考えた末、ファミリーマートは居心地がいいという理由が出てきた。セブンイレブンは新しいうえに空間が広い。アイスコーナーだけでもきちんと独立していて、スナックコーナーと同じくらいとってある。雑誌コーナーも窓際一杯並んでいる。道幅も広い。ファミリーマートはというとアイスコーナーはちっちゃいアイスボックスが一台、そしてその横に本棚が一台である。道は狭く、いつも人とぶつかる。でもアイスの品数はあまり変わらないのである。というかセブンは独自に開発したセブンオリジナルアイスなどが多く、普通のところ100円なのだが、オリジナル商品は150円とちょっと高め設定。僕が食べたい「爽」とかは置いていない。本棚もセブンの方は、同じ雑誌がズラズラと並べられている。それはそうである。その都度発売される雑誌の数は、コンビニの本棚のスペースに関わらず、同じである。それにより、セブンは本棚にしては本が少なく感じられて、ファミリーマートの小さい本棚の中では雑誌たちがひしめき合い、盛り上がっているように感じられる。しかも、小さいにも関わらず、立ち読みに関しても絶対に注意なんかしない。

店自体もすごく小さいので、見にくいのだが、品物が詰め込まれている様子が色んなものが一杯あるようで、しかも、実際色々「これありますか?」と訪ねるとでてきたりする。時間がすごく経っているので、ちょっと匂いもする店内だが、なぜかそっちが落ち着く。そして、そっちにだけお酒が販売されている。

コンビニというあまり違いがないように、画一化を求められている空間にもこうも違うものかといろいろと考えさせられる。あのファミリーマートをみると、なんか大鋸屑かなんかにくるまって寝ている猫のような心境になる。様々な器官が空間を感じるわけである。匂いも必要で、距離感、床と靴の触れ具合とか、まあいろいろあるはずである。それをコンビニというジャンルで質の違いを出そうとしているファミリーマートに今回は軍配が上がったような気がする今日この頃である。

寒い日に、一度便所にいくために布団から出て、用足して布団に戻ってきた時の、絶妙なヌル温かさと、ほのかな匂いをあのファミリーマートに感じてしまうのは考え過ぎだろうか。

それにしてもあの布団の温度は一体何度なのだろう。

0円ハウス -Kyohei Sakaguchi-