House > Journal > Archives > 2004年 > 3月

Journal -坂口恭平の毎日-

2004年3月31日(水)

印刷所に電話しまくる。
中野の印刷所でいいところを発見!
A1サイズで片面をオフセット印刷、300部で九万円。
ポスター式の雑誌でいこう。
本の出版、展覧会とシンクロさせて発売予定。
0円ハウス簡単キットみたいなものに仕上げる予定。
これを見てつくればあなたも簡単に0円で家が作れます!こうご期待。

2004年3月30日(火)

雑誌の話はちょっと長引きそう。
印刷代が高すぎるよ。このブラックボックスはちと手強そう。
現在56ページの本にする予定だったが、A1ぐらいの紙一枚の雑誌にしようかなと思っている。
60年代に「アーキグラム」という集団がいて、彼らはイギリスの建築学科の学生で、理想の建築像を一枚の紙に美しく描き、世界に配信していた。
全て手書きのドローイングであった。
しかし、その雑誌は、その後、世界中で読まれることになる。
これを学生の頃に知った私は興奮した。
同時期、アメリカではあの「ホールアースカタログ」が出版される。
私は完全にこの時期の出版物のあり方に影響を受けている。
しかし、同じことをくりかえしては意味がない。
彼らの考え方は素晴らしくはあったが、あまりにもシステマティックすぎたと思う。
誰もがドームになんか住むはずがなかったのだ。
これから私が伝えていきたいことは一つの解答なんていうものは存在しないということだ。
それぞれの人間がそれぞれのやり方をみつけていく。
生活の仕方が無限大にあるという前提からその中に含まれる共通点を認識しあい、それぞれを高めていく。
当面の私のテーマである「家」「生活」という観点から表現していきたい。

2004年3月29日(月)

昼に外出。パスポートを都庁に取りに行く。
その後、京橋の映画美学校で上映されている中平卓馬のドキュメンタリー映画「きわめてよいふうけい」を観る。
監督はホンマタカシ。製作を担当しているリトルモアの孫氏と会う。

風景のシーンはやっぱりよかった。
無駄な音は、入れられずに生のしゃべり声や物音だけがスクリーンから浮き上がって聞こえてくる。
何気ない近所の風景を新たなる凝視の眼でシャッターを切る中平を、近いような遠いような距離感でとらえるホンマ。
夏の昼寝のような間が全体に入り込んでいる。
小学校時代に公民館でみた映画のような感覚だった。
また、映画美学校の建築自体も素晴らしく、待合室でビールをついつい飲む。
夕方六時からは、リトルモアで浅原氏と打ち合わせ。
着実に進む。レモンスカッシュ、ピザトースト、ツナサンドをご馳走になる。
さらに帰りに最近近所に新しくできたパン屋でチョコクロワッサンを一つ買った。
夜、森の生活は下巻に突入。
ボブディランの1966年ライブ盤2枚組のアコースティックギター一本でやっている方ばかり聞いていた。
ディランはやっぱりいい。
そういえば今日は目黒川沿いを散歩して、桜を見た。
そして夜も近所を散歩。春の夜の匂いが堪らなく好きだ。

2004年3月28日(日)

目黒の紅さんとこに行く。
彼女は以前パリで「zekou」というギャラリーを開いていた。
二十代はメキシコで生活していたせいか、目黒の自宅は、私にはメキシコの山の奥のように見える。
彼女の不思議な魅力に自然と人が集まり紅特製の料理によって会話が弾む。
私が彼女と会ったのは、友人の紹介なのだがその友人も私が20歳の時にヒッチハイクしていた時に、車に乗せてくれた人だ。
こういう出会いは、偶然では起こらないという確信がある。
そんな彼女が、パリの知り合いを紹介してくれた。
アーティストのJcob Gautel&Jason Karaindros、芸術書のディーラーをやっているPatrice Jeudyと奥さんのゆうこさん。
本当に感謝します。どうにか展覧会ができるように頑張りたい。
日本でも出版と同時に展示をしたいのだが、こちらはあまり話が進まない。
出発前には手を打っておきたいのだけどね。

その後、親父と弟と夕飯を食べる。
親父からは旅行資金をカンパしてもらう。感謝。夜は「森の生活を読み進める。

BGM:ART ENSEMBLE OF CHICAGO/THEME DE YO YO

2004年3月27日(土)

今日は、本につける帯の文を考えていた。
まだ帯はつけない予定なのだが、もしつけるとなると、どうなるのかと思って考えている。
僕はこの本を通じて何を言おうとしているのか。
完全には分かっていない。
中身は日本の野宿生活者の家の写真なのだが、これを読者に伝えたいだけではない。
この本を読んで全ての人に家を建てたいという欲求があることに気づいてほしい。
しかも単に家を作りたいだけでなく、自分が住みたいように、自ら工夫して他では見た事がないようなものをつくりたいと思っているはずだ。
何千万という大金を払っててにいれるような商品のようなものでは決してない。
自分で作れば、お金をかけずに、自分にしかできない家が出来上がる。
そして、それは家というものを超えて、人間の精神性が全体として浮かび上がるはずだ。
そんな家が並ぶ街並をいつか歩いてみたい。
・・・などと夢想しながら私はこの本を作った。

2004年3月26日(金)

リトルモアで浅原さんと打ち合わせ。
パリに行く前に本を完成させたいけどちょっと難しいかも。
どうにか印刷所に頑張ってもらわないと。
今回本を作って、紙と一言でいっても相当種類があり、紙質がちょっと変わるだけで色の乗りぐあいから何から変わってくることがよく分かった。
だけど今回はそこまできちんとこだわっていきたい。
写真を自分で撮って、文章も書いて、レイアウトも、紙選び、表紙のデザイン、サイズの決定、本が出来上がるまでには様々な過程がある。
それらが絡み合ったものが「本」である。
作家はすべての工程を創造すべきだと思う。
この本ではそれがうまくいってるように思う。
最後まで手を抜かずやらないと。
H.Dソローの「森の生活」を久しぶりに読む。
いつかこれを僕なりに解釈して実際に日本で再現してみるつもりだ。
PET SOUNDSを聴く。

2004年3月25日(木)

4月15日からパリに行くことになった。
本屋に自分の本を売り込みに行ってみようと思っている。
滞在は一ヶ月の予定。
フランスにいく理由はもう一つあってそれは、「シュバルの理想宮」を見にいくことだ。
郵便配達夫であったシュバルは、1879年43歳のある日、配達の途中に石につまずいて転びそうになった。
その石を掘り出してみると、あまりにも不思議な形をしていた。
それに魅せられた彼は、以来33年間手押し車を押し、道に転がっている石を拾い集め、長い間夢に描いてきた夢の宮殿を作り続けた。
そして彼は現実に不思議な建築を作り上げる!!
私は、この建築を10代後半に知り相当にショックを受けた。
もうすごいのですよ。ほんとに。
でこれを今度は、撮りたいのです!

BGM:SUN RA AND THE SOLAR ARKESTRA/SPACE IS THE PLACE

0円ハウス -Kyohei Sakaguchi-